テクノーラ社-社内報
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■ INTERVIEW : 009  

小倉信也
コンセプトデザイン・設定考証

インタビュー 04/01/10

1.『プラネテス』に関わることになったきっかけを教えて下さい。

 2002年秋に"堀口 滋"プロデューサー(※1)からの電話が切っ掛けでした。「今度サンライズで『プラネテス』をアニメ化することになって、設定考証役に紹介、推薦したい」びっくりしましたねぇ!(笑)
 いや、『プラネテス』って漫画自体は先輩の森田 繁さん(スタジオぬえ)からこんな面白い漫画があるって教えてもらってたんです。こんな骨太なSF描く人がいるんだぁ〜って、読んで感心してたんですけどね。まさか、アニメ化されるなんて想像もしてなかったんです。まぁ、サンライズさん以外にこの作品を本格的なアニメ化をしようなんて思うアニメプロダクションはないとは思うんですけどね。
 なかなかリアルな宇宙船を描く仕事なんてないですものねえ。堀口さんは作品作りにこだわりのある方でして、その仕事の中で「宇宙船のことなら小倉!」という評価があってこその今回の推薦でしたから、プロとして、こんな光栄な事はありません。信頼してくれている堀口さんに恩返しするためにも参加したいと思いました。
 それに谷口悟朗さんが監督と聞いて、これは面白そうだなって思いましたね。特に『無限のリヴァイアス』の第1話冒頭のイメージがとても印象的でして、本格的なことをやる方だなぁって思ってました。実際、一番最初に御会いした企画会議で、「私としては"リヴァイアスの1話"を超えたいと思っています!」という決意を聞いて、俄然、やる気が湧いてきたのを覚えています。嬉しかったですねぇ!これについては、プラネテスの第1話、特に出港シーンなどで十分に果たせたのではないでしょうか!
 そうそう脚本が大河内一楼さんというのは、企画会議で御会いして初めて知ったのですが、驚きと同時に「一緒に仕事できるんだぁ」って素直に感動したものです。だって大河内さんの携わった作品って、なんか楽しいじゃないですか!御自身は自分の作風の色がないとおっしゃいますが、それは色々な作品に対応している証拠だと思うんです。脚本家としてホントにプロフェッショナルなんじゃないかと。これは楽しい作品になるなぁ!って思いました。
 こうしてアニメ『プラネテス』にのめり込む事になるんですが!(笑)

※1  堀口 滋(ガンダム大明神)
   現在「SDガンダムフォース」プロデューサー

2.原作『プラネテス』は星雲賞を受賞していますが、そういう作品の設定考証・コンセプトデザインを手がけるというのは、プレッシャーがあったりしませんでしたか?

 賞を採っているからプレッシャーというのでは、幸村さんの原作に対して失礼だと思うんです。幸村さんの『プラネテス』が面白いから受賞しているのですから!
 でも、だからこそ幸村さんが原作で描こうとしていたものの"核心""原点"になる部分にまで戻って、その上で表現媒体の違うアニメとしての表現をするようにしたいと思って各種の作業をしています。
 具体的に私の作業で例に挙げるなら、初代『TOYBOX』の設定とコンセプトデザインが一番分りやすいのではないでしょうか。DS-12『TOYBOX』は御存知のようにデブリ回収船です。と、いうことはデブリを回収する作業を行う宇宙船とは、どういうものか?そこまで戻って本来あるべき姿を検証、再構築するのが正しいのではないか!と、いうことです。ですから、成りゆき次第では原作とは似ても似つかぬものになる可能性もあったのです。たとえそうだとしても、"デブリを回収する作業を行う宇宙船"を使ってその仕事に従事する生身の人間たちが展開する"ドラマ"を描く。これを満たしていれば、正しい!ということです。
 実際のアニメ版 初代『TOYBOX』のデザインは、機能に支障がなければ原作デザインのデフォルメ記号を取り入れて構成していますが、それはあくまでテクニカルな問題であって、"全て"ではありません。原作をそのままトレースするアニメもありますし、それが良い作品もあると思いますが、少なくとも『プラネテス』に関しては違うと思います。こちらとしても本気で取り組もうと思って作業しています。それが原作に対する礼儀だと思うのです。

3.かなり多くの設定がこの作品では起こされていますが、『プラネテス』の世界観は現在の延長線上ということでしょうか?

 "ワープ"とかの超光速航法や反重力、ミノフスキー粒子みたいなよくアニメに出てくるSF的アイディア溢れる道具立ては、全くと言っていいくらい出てきませんものね。(笑)何かねぇ「SF的なアイディアありき!」というのを"どうだ!"って押し出しても、それって『プラネテス』じゃないって思うんです。原作同様、扱う技術も宇宙開発の現場などで現在研究中のものや実験中のもの、基本的には"教科書の科学"までで表現しています。("教科書の科学"なものだから企画会議の最初の頃は、なぜなぜ宇宙講座の連続でしたものね!)
 アイディア偏重のものは設定していません。タンデムミラー型核融合エンジンについては、論文や実験資料を頼りにデザインしましたしね。そういう意味では、『プラネテス』の世界観は現在の延長線上ということですね。これはこれで"困難の極致"というか"茨の道"でして!(笑)
 実際、JAXA(当時はNASDA)の現場担当者に取材してみても、やはり、現状では実際にやってみないとわからないことばかりなんですよね。例えば、軌道上、無重量状態で"飲酒"したらどうなるか?!(笑)わかりませんよねぇ。だって『規則違反』ですから!(笑)もちろん生身の人間のやることですから、誰かは飲んでるかもしれないけど、公式な記録にはないはずですしねぇ。まぁ、9話のタナベみたいに「なんだかグルグルぅ〜」なんでしょうけどね。
 とは言っても、わからないでは進まないので想像力で補完して設定しなければなりません。そこでドラマから遊離しないように、ガイドラインみたいなもの、基準が必要になるわけです。なんと言っても集団作業でアニメを作っているのですから、スタッフにわかりやすくするためにも。
 大河内さんとの話し合いでは、宇宙に出たりとか舞台が大きくなれば未来的なアイテムなどはOKだけど、生活に近いサイズでは見慣れたものや分りやすいものを配置して、あまり突出した未来的なアイテムが前面にでないように配慮してほしいとのことなので、注意して設定しています。これは現実には生活に近いものほど、技術革新がデザインに反映された変なものが出てくるものなのですが、そういう"リアル"ではなく、ドラマとの"バランス"ということなのです。一方、谷口監督からは、「プライオリティ(優先順位・重要度)の低いものならば、SFしてもOKです!」という演出判断をいただいてます。"隠し味レベル"ということですよね!
 このあたりが、アニメ『プラネテス』の設定作業のポイントでしょうか。
 でもそのためか、なんかアーサー・C・クラークとかの往年の名作SF小説のような風格が、アニメ『プラネテス』にはありますよね。そのストイックさのせいなのでしょうね。(笑)

4.起こされた設定の中で、大変だった設定、面白かった設定などはありますか?

 大変じゃない設定なんてありませんよ!!(笑)同じくらいみんな面白い設定です!とっても楽しい仕事ですよ!
 それでもあえて言うならば…。
 難産だったのは、やっぱり初代『TOYBOX』ですね。色々悩みましたもの。実は『TOYBOX』のデザインワークって、通常のアニメのメカとは全く逆のアプローチで作業しているんです。つまり、普通メカと言えどもアニメのキャラクターですから、フォルムとかシルエットとか全体イメージから入るものなのですが、『TOYBOX』については内部構造とか内側から構成していく関係で外形が決まるという方法を採っています。そう、本物の宇宙船を設計しているのと、全く同じなんですよね!(笑)
 具体的に言うと、例の"タバコの話し"(原作第3話・アニメ第12話)の時に、フィーのいる操船室から脱出用のカプセルまでが最短距離で結ばれているように区画を繋ぐ。そこからエアロックや居住区などの与圧シリンダーのブロックを連結していく。そして各種装備や支持する構造材を配置していくうちに形になっていくというやり方です。大変手間がかかりましたが、谷口監督から「これはシリーズ構成と同じくらい重要な作業です!」という理由で許していただきました。そのおかげで、異常に説得力のあるものになりましたね!JAXAの方も「これ、うちで作れますねぇ」って言ってましたし。(笑)
 アニメ版初代『TOYBOX』のデザインを一番喜んでくれたのは、他ならぬ原作者の幸村さんでした。「僕よりもDS-12について詳しくてらっしゃるようです」と言って下さって。これは素直に嬉しかったですね。でもその反面、問題もあって。手描きでアニメするには、あまりに複雑で線が多いんです!これは参りました。作業していて、なかなか線が減らせなくて、相当時間を費やしました。
 おかしな話なんですよ。別の作品の時にはアニメ用の線減らしのため直談判にしていたこの私なのに、自分のデザインだと減らせない!(笑)自分にとっては、どれも表現に最低限必要な描線なんですから。それで、アニメ的なキャラクター出しも含めて、メカシーンの総作画監督を担当する中谷 誠一さんにあずけることになったんです…。それでも、減らない!!いや、増えている!!(笑)まぁ、ロボットや戦闘機みたいに派手なアクションはないものだから、という判断からでしたが。その意味では、強力なキャラクターですよね。『TOYBOX』って!
 続いて、『フォン・ブラウン』号がプロセス的にかなり時間がかかってしまいましたね。"携帯電話"って人気の『ルナ・フェリー(月定期船)』、軌道保安庁の『巡視船』と『悪のデブリ船』が面白くて印象深いです。高倉 武史くんに担当してもらった『宇宙服』や『フィッシュボーン』、14話から登場の『TOYBOX 2』などは、洗練された完成度の高いとても素晴しいデザインです!感謝!
 純粋に"設定"について言うなら、今までできなかったタブーを破ったこと。宇宙では真空だから音がしない。軌道にのると宇宙船が"縦"になる。無重力では、重心位置を意識して噴射する。などなど!どれも谷口さんが監督じゃなかったら実現しなかったことばかりです。すごい事なんですよ!アニメ『プラネテス』で、"新しいスタンダ−ド"を確立したんですからね。
 そして何より、それを作画で表現してくれる千羽 由利子さんをはじめとする第2スタジオのみんな!最高です!!本当にありがとうございます。
 難しい専門台詞にも頑張ってくれている、声優のみなさんにも感謝しています。
 とってもレベルの高い現場なので、大変刺激になる面白い仕事です。

どうもありがとうございました。

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