テクノーラ社-社内報
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■ INTERVIEW : 017  

浦上靖夫
音響監督
インタビュー 04/05/10

1.アニメ『プラネテス』全体を通しての印象はいかがでしたか?

とても良い作品に、めぐり合えたと思います。
そして、新しい音作りに挑戦させていただく機会を持たせていただきまして、とっても有難く思っております。
宇宙空間という音の無い世界が、いかに怖いものかとつくづく感じさせられました。日頃我々は、音の溢れる中で自然に暮らしています。電車の音、車の音、テレビの音、風の音、雨の音、鳥の声、風で葉がさらさらとなる音、と数えたらきりがありません。そして、ひっきりなしに聞こえてきます。
それが、いきなり無響室に入ると、音が無い為に恐怖感にさらされます。耳がキーンと痛くなってきます。まさに、このプラネテスの映画の世界もそんな感じがあります。わずか2〜3秒のことなのですが、無音の所は、作る側にとっては恐怖に駆られます。また音があっても“今、無音の世界に居るのだぞ”と、音楽や効果音などで表現もしたりします。
そんなことで、とてもいい経験をさせていただき、ありがとうございました。谷口監督には、とても感謝しております。

2.キャスティングや役作りで気をつけたことなどはありましたか?また、予想外な効果があったキャスティングなどはありましたか?

まず、主役のハチマキの声は、なるべくそこいらに居る普通の友達感覚の人にお願いしました。それは、視聴者の皆さんにとって非現実なお話を、より現実の世界に引っ張り込みたかったからです。後は、主役に合ったバランスを考え、他の役者さんたちを決めました。もちろん、谷口さんと相談をしながらです。
予想外というより、役者の皆さんは予想以上に頑張って下さいました。ヒロインのタナベも主役と同じように良かったです。悪役になるハキムも良かったです。フィーの姉御も良かったです。ユーリ、課長、ラビィ、エーデル、ドルフ、クレア、ギガルト、チェンシン、父さん、母さん、ノノ………みんな頑張ってくれました。感謝です。

3. 『プラネテス』の音響について、宇宙空間を無音にしたりなど挑戦もあったかと思いますが、他の作品と違う所や苦労したことなどはありますでしょうか?

ひと口に無音といっても、宇宙空間だからとて10秒も20秒も無音にすることはできません。TVが故障して音が出なくなったかと思われますものね。
その時は、主観が何処に在るかということで考えました。例えばハチマキの主観だったらハチマキの呼吸音とか、または、心理的な所には音楽をつけたり。しかも、宇宙空間であることを観ている人が忘れないようにと考えました。たまに本当の無音になったり(ほんの1〜2秒のことですが)…と毎回いろいろと考えました。それが、とてもこの作品に合って、新鮮な感じが出せたのではないかと思っています。
そして、自分にとってもこの作品の音響演出の面白さが十分発揮できる場になったことを、皆さんに感謝します。

4.音響監督という仕事のやりがい、また今後そういったことをやりたい人に向けて必要なものは何でしょうか?

会話が主体のシーンですが…敵方の工作員が、主人公に探りを入れながら話しかけてくる。おもむろにタバコに手をやる。そしてカットがいくつか変わり、その工作員がタバコを吸いながら核心に触れていく……カット!なんか変なんです。何か物足りない。と、その時ひらめいたんです。タバコに火をつける絵が無いんです。そう、省略されているんですね。じゃ音を入れればいいんだと思い、ライターを探しました。100円ライターでなく、しかも工作員らしく、ジッポーのライターを探しました。そして工作員の絵が映っていないところに「シュボッ」という音を付けたんです。そうしたら、そのシーンがとても血の通った緊迫が感じられました。あたかもタバコに火をつけている表現が、絵の外で生きて感じられるんです。観ている人の五感を利用したんですね。で、それを見ていた人が「音ってこんなことが出来るんだ〜」と感激されました。こんなことが自分のやりがいでしょうか…。そして、これからもそういう五感が働く音作りをしたいと思っています。絵に音を付ける事だけでなく。
そんなことをやりたいと思っている人は、いろいろな経験をして自分の感性を磨くことでしょうか。アルバイトでも何でもいいです、いろいろな経験をした方がいい(人に迷惑をかけることを除いてね)。そして、なるべく良い映画とか、一流の作品、絵とか、音楽とか、なんでも一流のものがいいと思います…。そうそう、楽器なんか演奏するのもいいかも知れません。感性を磨くのには最適でしょう。

ありがとうございました。

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