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「というわけで、動画、仕上げの発注もなんとかできたね」 |
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「モモモン、ムホ(350カットもの量を捌くのは大変だな。どのカットが何処にあるのか忘れちまいそうだよ)」 |
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「でも、キャラクターの絵が出来上がっても背景がまだなんだよね」 |
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「ムホムホホ(前にBG原図っていうのを作ったよな)」 |
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「そういうわけでクレアさん、いつもの解説お願いします」 |
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「…そういう安直な振りはどうかしらね。ま、ともかく背景だけど、BG原図を作ったところで、セルの工程とは別ルートで作業を進めることになるのよ」 |
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「いきなり画用紙に描くんですか?」 |
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「そんなわけないでしょう。まず、キャラクターと同じ様に、背景にも線画の設定があるの。あるシーンの背景・舞台がどういうものか、各セクションのスタッフがわかるように作るのよ。これは美術監督が描くわ」 |
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「それを見ながら描くんですね」 |
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「それだけじゃ色がわからないでしょう。線画の美術設定に色をつけて、質感だったり、昼の色、夜の色などを決めた美術ボードというのを作るの。その上で、カット内容の指示の入ったBG原図をもとに演出と打ち合わせをして、実際の背景作業に入るのよ」 |
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「そうか〜。綿密ですね〜。そこまで決まっていれば簡単ですね!」 |
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「…薄っぺらいわ」 |
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「はい?」 |
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「あなたのアニメの認識は薄っぺらいのよ。簡単なわけないでしょう。背景から伝えられる情報量はとても多いの。色や質感はもちろんだけど、そのシーン・作品の空気感は背景によって作られるところが大きいのよ」 |
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「な、なるほど〜(クレアさんの“薄っぺらい”はへこむな〜)」 |
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「ムホホムホ(確かに背景がきれいだと絵に迫力がある気がする)」 |
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「描き込んであればいいというものではないのよ。その作品に合ったものであることが重要ね。いわゆる描き込んだ背景でなくても、良い背景というのはあるわ」 |
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「ムホ(ムゥ。奥が深いな)」 |
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「今、背景さんに電話したら、50カット分位上がってみたいです」 |
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「じゃあ、回収にいってきて」 |
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「はい!行ってきます」 |
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「あっ、ちょっと待って。これを持っていきなさい」 |
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「ムホムホホ?(この縦40センチ、横80センチ、深さ30センチ程のプラスチック製の箱、蓋つき、は何?)」 |
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「背景は紙に描かれていて、大きさも大きいのがあったりするのよ。例えば車の窓の外の風景が流れていく背景は、長い背景を作ってそれを引いて撮影してるの。そういうのを入れるためと、雨が降ったりして背景が濡れてしまわないように、もしくは傷をつけてしまわないように箱にいれるのよ。でも最近はデータで納品してるところも増えてきてるけどね」 |
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「ム〜ホ、ムホ(う〜ん。慎重に扱わなくちゃいけないのか)」 |
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「あと以前、背景にコーヒーをこぼした進行がいたって聞いたことあるけど、そういうことはしないように。耐え難いお仕置きが待ってるわよ」 |
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「(クレアさんてストレスたまってるのかなあ)」 |